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とむらいきかんしゃ

とむらい機関車

大阪 圭吉

大阪圭吉『とむらい機関車』。同一底本的分册已合并为一书。收入:とむらい機関車、死の快走船、気狂い機関車、闖入者、三狂人、白妖、あやつり裁判、銀座幽霊、動かぬ鯨群、寒の夜晴れ、坑鬼。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,729 字 · 371 页

青空文庫

「いったい、そ奴は何者です?」

「いや、もう間もなく出て来ます。もう少し待って下さい」

「……」

司法主任は、不機嫌に外を向いてしまった。

空は美しい夕日に映えて、彼方の箱根山は、今日もまた薄霧の帳に隠れている。

裏庭の広場では、どうやら安吉老人が薪を割り始めたようだ。きっと浴室の煙突からは、白い煙が立上っているに違いない。

と、不意に司法主任が立上った。右手にコーヒー茶碗を持ったまま、呻くように、

「こ、こりゃあ、どうしたことだ!」

「……」

「あんなところに……」司法主任の声は顫えている。「あんなところに……むウ、富士山が出て来た!……こ、こりゃあ妙だ?」

見ればいつのまにか、箱根山を包んだ薄霧の帳の上へ、このような方角に見ゆべきもない薄紫の富士の姿が、夕空高く、裾のあたりを薄暗にぼかして、クッキリと聳えていた。

「あなたは、こう云う影の現象を、いままでにご存じなかったのですか?」

大月が微笑みながら云った。

「いや私は、最近こちらへ転勤して来たばかりです!……ふうム、成る程。つまりこりゃあ、入日を受けて霧の上へ写った、富士山の影ですね」

「では、序に」と大月は前方を指差しながら、「どうです、ひとつ、あの近景の木立を見て頂きましょうか」