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とむらいきかんしゃ

とむらい機関車

大阪 圭吉

大阪圭吉『とむらい機関車』。同一底本的分册已合并为一书。收入:とむらい機関車、死の快走船、気狂い機関車、闖入者、三狂人、白妖、あやつり裁判、銀座幽霊、動かぬ鯨群、寒の夜晴れ、坑鬼。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,729 字 · 371 页

青空文庫

遠く左の方には薄紫色の犬崎が、私達の通って来た海岸へ続くのであろう、この大きな内海を抱きこむようにして、漂渺たる汀を長々と横えている。向って右側には、油を流したような静かな内湾地帯だ。幾つもの小さな岬が重なり合った手前には、ひときわ目立って斑な禿山のある美しい岬が、奇妙に身を曲ねらして海の中へ飛出している。凡て右側の湾の多い陸地は、深い山が櫛の歯のように海に迫り、蜘蛛の子を散らしたような磯馴松が一面に生い茂っている。この邸以外には人家らしいものとてなく、見渡す限り渺茫たる海と山との接触だ。青い、ぼかし絵のようなその海を背にして、深谷氏の船室が白々と輝き、風が出たのか白い柱の上空を、足の速い片雲が夥しく東の空へ飛び去っていた。

やがて食事が済むと、紅茶のカップを持ったまま、窓の外を見ながら東屋氏が口を切った。

「あの柱は、何になさるのですか?」

「あああれは、汽船の気分――を出すためとか申しまして」

夫人が物憂げに答えた。「あれも主人の、趣味でございます」

「尖端の方に妙な万力が吊るしてありますな?」

「ええ、そう云えば、時にはあの尖端に燈火を点けることもございました……年に一度か二度のことですが、なんでも、いつもより少し遠く、沖合まで帆走する時の、目標にするとか申しまして……」