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なつかしまれたひと
なつかしまれた人
小川 未明
「童話」1926(大正15)年3月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,245 字 · 11 页
「せっかくそういって、迎えにきてくれたのだから、どうしても帰らなければなるまい。俺はまだ、もうすこしくらいはここにいて、働いていたいのだけれど……。」と、独り言のようにもらしていました。
おじいさんは、新しい着物にきかえて、自分のいままで身につけていた半纒や、股引きや、破れた帽子をひとまとめにして、そばにあった、貨物自動車の荷の上に乗せておきました。
「さあ、おじいさん、仕度がすんだら、すぐに出かけましょう。」と、息子はいいました。
おじいさんは、そこに居合わせた、仲間に別れを告げました。すると、その人たちは、
「おじいさん、あんまり急じゃないか。名残惜しいな。しかし、めでたいことで、なによりけっこうだ。無事に暮らさっしゃい。」といいました。
「さよなら。」
「達者で暮らさっしゃい。」
仲間は、口々にいって、おじいさんの出てゆく姿を名残惜しそうに見送っていました。それから、みんなは、また、自分たちの仕事にとりかかって忙しそうに働いていました。
このとき、一台の貨物自動車が、会社の門から出て、町を過ぎ、ある田舎道にさしかかったのであります。車の上には、世帯道具がうずたかく積まれていました。