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ばちあたり

ばちあたり

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页

青空文庫

「おかあさんがそれを承知したっていう証拠でもあるの、あるなら見せてちょうだい」

「法光寺の石岡さんに訊けばわかりますよ、石岡さんもその話しは知ってるんだから」

「そんなこと他人に訊けますか」

「他人たって菩提寺の住職ですよ」と敏夫は云った、「五番町の兄さんは知っている筈なんだ、高校で同級だったっていうから、――ふだんからおふくろと話しの合う人で、坊主が経を読んだって成仏するなんてことはない、死ねばみんな同じとこへゆくんだ、寺へ納める金があったら生きてるうちにうまい物でも食っておくほうがいいって、――おふくろも笑って、そのとおりだって云ってましたよ」

「なんてまあひどいことを、そんな一休さんみたいなこと云ったって世間に通用すると思うの」姉の声は高くなった、「おかあさんにさんざん苦労をさせたうえ、死んだあと問い弔らいもせず、線香一本もあげないなんて、そんな人間の道に外れたことがありますか」

「なんとでも云って下さい、ぼくは姉さんに褒めてもらうつもりはないんだから」

私は立って、炉の間へ出ていった。啓三は長い金火箸で炉の火を突ついてい、姉は手帛をつかんだ手をふるわせながら、私のほうへ振向いた。