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ひとでなし

ひとでなし

山本 周五郎

「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页

青空文庫

「そう続けさまでは酔ってしまうよ」

「あなたは仏さまみたようよ」とおようは構わずに云った、「あなたはきっとおかみさんを大事になさるでしょう、着たい物を着せ、喰べたい物を喰べさせ、芝居見物、ものみ遊山、なにひとつ不自由をさせずに、可愛がってあげるでしょう、それを仕合せだと思うような、おとなしい人をおかみさんにするのね、あたしはだめだわ」

「ちょっと」と彼はおようが手酌で飲もうとするのを止めた、「そう飲むのは乱暴だ、おまえもう酔っている、もう少しゆっくり飲まないか」

「済みません、怒らないで下さい」

「怒りゃあしない、私がすすめたんだ、ただもう少しゆっくり飲むほうがいいよ」

「怒らないで下さるわね」とおようはやさしく云った、「どうぞ、あたしのこと諦めて下さい、あたしあなたのおかみさんになれるような女じゃありません」

「おまえ酔っちまったんだ、その話はもうやめにしよう」

「ええやめます。でもこれだけは云わせて下さい」とおようは続けた、「あなたにはわからないでしょうけれど、女っていうものは、真綿でくるむように大事にされても、それで満足するもんじゃありません、あの人でなしのために、あたしは死ぬほど辛いおもいをし、涙の出なくなるまで泣かされました、けれども、しんそこ泣かされるということがどういうものか