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ふるさとによするさんか

ふるさとに寄する讃歌

坂口 安吾

夢の総量は空気であった

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,184 字 · 13 页

青空文庫

それは疑いもなく真実であった。しかし彼女は、私の知らぬ間に、私の中に生長していた。そして、私の中に生長した彼女は、もはや現実に成育している彼女とは別の人であるのかも知れなかった。私の中の彼女は、いわば一つの概念であり、一つの象徴であるのかも知れなかった。しかし、その概念を追うて、北国の港町へ太陽を泳いできた私は、概念でもなければ、象徴でもなかった。それは現実の私だった。現に今、ものうい路に埃を浴びて歩いていた。疲れてはいるが、生命と、青春を持っていた。それ故彼女も生きていた。彼女は力であった。一目見ることのほかに、そして彼女を追うことの外に、私に何の計算もなかった。

かような私を眺めやるとき、私は私が、夢のように遠い、茫漠とした風景であるのに気付いていた。私は、ふるさとに点々と私の足跡を落しながら、この現実の瞬間が、思い出されている夢であるような遠さに、いつも感じつづけていた。私は、その夢を、その風景を、あかずいとおしんだ。風景である私は、風景である彼女を、私の心にならべることをむしろ好むのかも知れなかった。そして風景である私は、空気のように街を流れた。