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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

もしかすると妹がこちらの気を試すつもりで、無根のことを云ったのではないかとさえ、思っていた。

――それが重臣暗殺の首謀者、……しかも罪科は死罪だという。

暗殺の謀計などは理由なしに行われるものではあるまい、どんな理由でそのようなことが計画されたのだろうか。そのころの政治はいうまでもなく専制で、当局者のほかはこれを批議することを許されない、特に婦人たちは――異例もないわけではないが――殆ど覗くこともできなかった。したがって信乃も藩の政治情勢などはまったく知らず、そこにどのような事情が隠されているか、それが有り得ることかどうかさえ見当がつかなかった。

「――なんとかしなければならない」

その夜ひと夜、寝所で転々しながら信乃は独り言を云った。

「――知也さまは死罪になる、知也さまが、……いいえいけない、あの方を死なせてはいけない、なんとかして助けてあげなければ――なんとか法を講じて、……でもどうしたらいいだろう、どうしたら助けてあげられるだろう」

信乃は実家の兄に相談しようかと思った。夜が明けたら訪ねようと決心したが、兄も納戸奉行をしている以上、そういう大事を知らぬ筈はないし、助けることができるものならそれだけの工作はしたであろう。