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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

来て坐るなり、文代は非常な大事を知らせるように、破牢のことを語った。

「牢を破ったのは七人ですって、三人はどこかの御門で捉まり、もう一人は大橋のところで、それから街道口で一人、つまり五人捉まったけれど、知也さまともう一人の方はお逃げになったらしいですわ」

「――でもそれが、逃げられたのが知也さまだということがどうしてわかるの」

「西原のお家へ役人が詰めているのですって、五人も夜昼ずっと詰めて見張っているということですわ、もう大丈夫よ、もう五日も経つんですものね」

「――どうしてそんなことをなすったのかしら、どんな悪い事をなすったのかしら」

「なにかわけがあるのよ、あの方が悪いことなどなさる筈がないじゃありませんか」文代は怒ったようにこう云って肩を揺った。よほど知也はここにいることを告げようかと思ったが、まだその時期ではないと思い、しまいまで知らぬ顔をしていた。

七日めごろから良人の勤めはまた平常にかえった。おそらく捜査はうちきられたのであろう、神経の尖った、苛々した顔になり、食事もすすまぬようすで、些細なことにびっくりするほど怒って声をあげた。……知也へは日に三度、雑炊を運び、夜半にはおかわをあけてやる。