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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

できなかった、……上村には才能もあり出世もしたけれど、心からの友達もない――誰にも好かれていない、いつもみんなから敬遠されていたわ、――慰めもなく、孤独で、ほかの方のように妻を愛することもできない、本当にさびしい気の毒な人だったのよ」

「よくわかるわ、お姉さま、上村さまのことはよくわかってよ」

こう云って文代は姉の手を押えた。

「でもあの方がお気の毒だからといって、そのためにお姉さまの一生を不幸にすることはないわ、知也さまはお姉さまを愛していらしった、これまで独り身でいらしったのもそのためとはお思いにならない、……お姉さまが上村と縁が切れて、こんどの騒ぎがおちついて、一年でも二年でも経ったら、お姉さまを嫁に迎えたいって、……このあいだからお兄さまや母さまと御相談なすっていますわ、知也さまは今でもお姉さまを愛していらっしゃる、そしてお姉さまも知也さまをお好きな筈よ、本当におしあわせになる時が来ているんじゃありませんか、お姉さま、……お願いよ、文代のお願いよ、御自分をどうぞ不幸になさらないで」

「ありがとう、うれしいわ文代さん」信乃は片手の指で眼を抑えた。