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わがせいしんのしゅうい

わが精神の周囲

坂口 安吾

「群像 第四巻第一〇号」1949(昭和24)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,670 字 · 32 页

青空文庫

私は春の七八分の一程度の服用量だからと安心しているうちに、すでに中毒症状に陥ちこんでいたのであった。

まえに田中英光君が同じ中毒で愛人を刺した事件があったところへ、又、私の中毒再発であるから、ジャーナリズムが呆れたのはムリがない。意志薄弱とか、狂気の文学などと二三の批評を新聞でよんだが、果して、そういうものだろうか、私は抗議も言い訳もしないが、たゞ私の小説を読んで欲しいと言うだけである。

新潮に連載された「にっぽん物語」を読んでみたまえ。又、これから某誌に連載されるその続稿をよんでくれたまえ。この小説は、私が鬱病(精神病の一種であるが)と闘い、消耗する精神や体力の火を掻き起しつゝ、争い、そして、書きつゞけた小説で、すでに歩行も、喋ることも不可能な時に至っても、尚、精神病院の鉄格子の中でふるえる手で、時には自分にも得体の知れない文字によって書き綴りつゞけた小説なのだ。幻視と幻聴の中で書き綴った小説なのである。

これ以上に健康な小説が、有ろうとも思われぬほど、健全ではないか。私の精神や肉体は異常であったかも知れないが、私の仕事は健全そのものであり、いさゝかも異常なところは見られない。