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アンドロギュノスのちすじ

アンドロギュノスの裔

渡辺 温

渡辺温『アンドロギュノスの裔』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アンドロギュノスの裔、可哀相な姉、或る母の話、父を失う話、花嫁の訂正、イワンとイワンの兄、恋、勝敗、少女、シルクハット、嘘、象牙の牌、兵隊の死、ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった、遺書に就て、赤い煙突、風船美人、四月馬鹿、十年後の映画界、浪漫趣味者として。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 页

青空文庫

だがさて着ているオレンジ色のジャケツは、銀座通りでひょっと見た時には随分花やかで立派だったのに、よく見るともうすっかり古びてしまって肩のあたりには大きな穴が三つもあいているのであった。(おやおや、これはひどい――)と井深君は何だか急に果無いものを見たような気がした。

やがて食事が終ると女給は張り合いの無さそうな挨拶をして階下へ降りてしまった。

「さあ、御飯がすんだら、少し火のそばで暖まろう――」

井深君はそう云い乍ら椅子をガス・ストオヴの前へ引き寄せた。

「ええ。」娘もおとなしく井深君の真似をした。

「君、外套がほしいだろう?……」と井深君は薔薇色をしたストオヴの中を見たままで云った。

「ええ。」

「五十円もあれば買えるかな?……」

「そりゃあ、買えてよ……」

井深君はそこで黙ってふところから沢山の紙幣束を呑んで大きく膨らんだ紙入を出すとその中から五枚の草色をした紙幣を引き抜いて傍のテェブルに置いた。しかし、娘はそれを見ると周章てて井深君の手をおさえて云うのであった。

「いらないわ、いらないわ。……あたし、そんなにはどっさり、あんたからは貰おうなんて思わないわ。