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イエスでん

イエス伝

矢内原 忠雄

マルコ伝による

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 220,119 字 · 436 页

青空文庫

「この人はわが国の民を惑わし、貢をカイザルに納むるを禁じた」とか、「ユダヤ全国に教えをなして民を煽動し、騒擾を惹起す」とか(ルカ二三の二、五)。

何も答えぬか。視よ、いかに多くのことをもって訴うるか。

と言いましたが、彼の怪しむばかりに、イエスはさらに何をも答え給いません(一五の二―五)。

ピラトが怪しんだのは、イエスが何もお答えにならなかったということだけではない。イエスの御様子はいかにも静かで、威厳がある。怖ろしくて口がきけなかったわけではない。口をきかれる以上に、彼の悪人でないこと、謀叛などを企てている者でないことが、彼の沈黙のうちによく現われていた。その威厳ある静かな態度を見て、ピラトが不思議に思った。普通の人間であるならば、「汝は貢をカイザルに納めることを禁じた」などと訴えられますと、「いやそれは曲解だ。自分はカイザルのものはカイザルに、神のものは神に、と言っただけだ」と必死になって陳弁するところです(一二の一七参照)。しかしイエスはさまざまの誣告に対し、一言半句の陳弁も弁解もなし給いません。

イエスはユダヤ人の王と称せられることを否定し給わなかったけれども、それは何ら政治的の反乱・騒擾を意図するものでなく、宗教的・霊的の意味をもって言われたのであることを、ピラトはすぐに認めました。