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ガラマサどん
ガラマサどん
佐々木 邦
「キング」1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页
と太夫さんも心得たものだ。
「そんなこともないが、あゝいう荒武者は柄に合っていると見えて、やり宜いんだ」
「私共が致しますと、幾ら大声を張り揚げても、熊谷になれません。下司は情けないものでございますよ」
「…………」
「そこへ行くと社長さんは斯うして黙って坐っていらっしっても、そのまゝ熊谷次郎直実でございます。肚が出来ていらっしゃるから敵いません。人格の力は恐ろしいものでございますな」
「…………」
「その人になり切るのでございます。熊谷ばかりじゃございません。猿廻しの与次郎になれば如何にもその日暮らしの慌てものらしく、お俊になれば矢張りお俊らしく、夫れ/″\御工夫をなさいます。芸事でも何でも詰まるところは頭でございますよ。私はお師匠さんとして毎度お稽古に上りますものゝ、実は私の方が教えられて、感心して帰ることが度々ございます」
「おい/\。口上はそれぐらいにして置いて、始めた/\」
と社長は上機嫌だった。
前弾きの間、社長が目を瞑っていたのを幸いに、中島さんは思いさま瞬きをした。溜置きの積りだったろう。
「奥へつれて行く。相模は障子押し開き、日もはや西に傾きしに、夫の帰りの晩さよと、待つ間程なく、熊谷次郎直実……」