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ガラマサどん
ガラマサどん
佐々木 邦
「キング」1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页
とこれは先頃から稽古中のもので、私は二度聴かされて、非常に長いものだということ丈け頭に残っていた。気をつけて時間を計って見たら、一時間と二十分かゝった。その間、欠伸をして昇給を棒に振っては溜まらないから、私達は固唾を呑んで身動きもしなかった。
「……有為転変の世の中やと、互に見合わす顔と顔。さらば/\おさらばの、声も涙に掻き曇り、別れてこそは出て行く」
「テヽン」
とお師匠さんは弾き終った。私はいつもこのテヽンで愁眉を開く。
「何うも有難うございました」
と中島さんが代表してお礼を述べた。
「大汗だ」
と社長は直ぐに肌を脱いだ。女中が恭しくタウルを捧げる。もう一人は後ろから拭く。
「今晩は素晴らしいお出来でございました」
と太夫さんが褒めた。
「聴き手があると調子に乗るからね」
「へい」
「何処が好かったね?」
「何処も彼処も申分ございません」
「そんな無責任な批評は御免蒙る。特別好かったところを言って見給え」
と社長は素より好いに定めている。
「十六年も一昔」
「うむ」
「あゝ夢であったなあと。あの辺が如何にもシンミリとお出来になりました」
「得意のところだもの」
「私共は熊谷ほど悟り切れませんから、彼処が迚もあゝ参りません。