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トコヨゴヨミ
トコヨゴヨミ
田山 花袋
「早稲田文学」1914(大正3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页
七
暦を五、六枚持って、市中の雑誌店や何かを勇吉が廻って歩いたのはもう年の暮も押詰った二十五六日であった。市中は賑かに派手な粧飾などをして、夜は電気が昼のように街頭を照した。車や自動車が威勢よく通って行ったりした。
何処の雑誌店でも、相手にしないような家が多かった。仕かけを説明してきかせても、容易に飲み込めないような人ばかりであった。「まア、なんなら二三枚置いて行って御覧なさい。」こう言って呉れる家は中でも深切な好い方であった。ある店では、「暦はもう遅いですよ。もう大抵何処の宅だって買って了いましたからな……もうちっと早ければ売りようもあったでしょうけれども、こう押詰っちゃ駄目ですよ。」などと言った。勇吉はためしに置いて貰う位で満足しなければならなかった。
それでも百枚ほどは足を棒のようにして、彼方此方の店に行って頼んで置いて貰った。本郷から小石川、牛込、下谷、浅草の方まで行った。毎日勇吉はヘトヘトに労れて家に帰って来た。
二三日経ってから、置いて来た店を勇吉は廻りに出かけて行った。勇吉は非常に失望して帰って来た。殆ど一軒も売れないと言っても好い位であった。