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バルザックについてのノート
バルザックについてのノート
宮本 百合子
「歌声よ、おこれ」解放社、1947(昭和22)年8月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,421 字 · 9 页
奇妙な別離
「魂と魂との結合が完きものであったときには、この美しい感情の極致を傷けるいかなるものも致命的なのだ。悪党どもなら匕首を振った後に仲直りするような場合にも、愛する者同志は、ただ一瞥一語のためにも仲をたがえ取り返すべからざるに至る。こうした心情生活が、殆ど完璧の域にあったことの記憶の中に説明のつきかねることの往々ある離別の秘密がひそんでいるのだ。」
「銭金のことは、どんなことでも円く行くもの、しかし感情は情容赦を知らないものである。」
バルザックがこれを知っていたことは面白い。そして私たちを深く考えさせる。金銭の利害が人を支配するということをあれだけテーマとしている彼が。それだけに又「幻滅」ダヴィドとエーヴ、ポンスのような人物を描いたのだとも云える。そして決定的な一つのことを語っている。あらゆる大芸術家の重大な資質の一つは善良さと純潔な人間性であるということについて。
「二世紀(十五・六世紀、ルネッサンス)というものは権力に抗う人々が『自由意志』の怪しげな主義を築くために費された。更に二世紀(十七・八世紀)というものは、自由意志の第一段の必然帰結たる信仰の自由の発達を促すために費された。