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バルザックにたいするひょうか
バルザックに対する評価
宮本 百合子
「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页
それ故今日、このトゥール生れの、僅か二十年足らずの間に「人間喜劇」九十六篇のほか小論文五百十四、戯曲六篇という尨大な制作を行い、しかも生涯借金に悩まされどおしで死んだ横溢的な世界的作家に母国語で親しめるということは、我々にとって遅すぎたとしても決して早すぎて到来した機会と言えないのである。
しかし、昨今作家及び文学愛好者の間に生じたバルザック熱ともいうべきものを、その社会的要因にまでふれて観察した場合、はたして、それが文学の正常な発展のために積極的な意味だけをもつものであると言い切れるであろうか? 答えは、おのずから複雑であろうと思われるのである。
文学史の面から見ても、日本の一九三三――三四年は特筆されるべき内容をもった二年であった。一九三三年の初夏、佐野学・三田村・鍋山等の共産主義者としての理論の抛棄と日本の侵略戦争を肯定する画期的な裏切りは、勤労階級の解放運動に未曾有の頓挫を来したばかりでなく、文学をも混乱におとしいれた。プロレタリア文学の領域には、前後して社会主義的リアリズムが提唱され、創作方法組織方法に関する猛烈な自己批判がまき起されていたのであったが、討論は十分新しい課題を正当に把握しきらないうちに、前年からしばしば弾圧を蒙っていた十年来のプロレタリア文学運動の活動家の大部分が情勢に敗北する