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ロマンスとえんだん

ロマンスと縁談

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,722 字 · 28 页

青空文庫

僕は立った。すると専務が、

「橘高、庄さん、待ってた、ホイ」

とやったのである。社長初め老輩が拍手喝采した。社長は秀逸だと言った。しかし若い連中は意味が分らなかったから黙っていた。社長が立って、

「情けないな。この頃の若いものは洒落が通じない。困ったものだ。僕が説明する。いゝかな。『来たか、庄さん、待ってた、ホイ』という人口に膾炙した文句があるんだ。名倉君はそれをもじったんだ。『橘高、庄さん、待ってた、ホイ』さ。うまいよ。当意即妙じゃないか?」

と推賞した。そこで皆改めて大いに笑った。

以来、僕の姓名が会社中に知れ渡った。仲間同志でも、待ってたホイをやる奴がある。これによってこれを見るに、橘高庄三は社長重役の間に認められている。豈努めざるべけんやだ。

さて、同僚の女房について一言する積りだったが、同僚といっても、徳川時代の洒落の分るような頭の禿げたのは計算の外に置く。老輩は遠慮があるから、自然敬遠する。本当の同僚、即ち君僕の間柄が二十名近くいる。半数が世帯持で半数が独身だ。僕が特別に感じているのは、この世帯持連中が押しなべて平凡な女房に満足していることである。