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ロマンスとえんだん

ロマンスと縁談

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,722 字 · 28 页

青空文庫

ね、君、ね』と言って、僕の肩に手をかけた。僕は泣き出してしまった」

「ふうむ。そうして先生は辞職したのかい?」

「新学年が始まったら、もういなかった。しかし辞職じゃない。何処かへ転任したんだ。学校に何かあったらしい。他の先生も二三人変った。転任に定っていたから大目に見てくれたのかも知れないと思うんだけれど、僕は未だに身に沁みている」

「成程。それじゃ合せる顔がないな」

「お調子ものゝ僕が改心して、兎に角当り前にやっているのは先生のお蔭さ。あの時おっぽり出されて見給え。今頃は何うなっているか分らない。その先生が隣りにいるのに、君は量順さんってことを一遍も言ってくれなかったんだ」

「それは苗字丈けで間に合うからさ。誰だって一々名までは言わないよ」

「敢えて咎めるんじゃないけれど」

「咎められる筋もないよ」

「そんな水掛論は何うでも宜いが、何うしようかな? 寄る方が宜いだろうね?」

「宜いとも。ドラ息子ほど親は可愛いものだそうだから、閻魔の塩辛が喜んでくれるだろう」

と宮下君が利かせた。

僕は宮下君に案内されて、佐藤先生を訪れた。洋間へ通されて待っている間、胸が動悸を打った。