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ロマンスとえんだん

ロマンスと縁談

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,722 字 · 28 页

青空文庫

そう気の弱い人間ではないけれど、十年前の中学生に戻っていたのだった。

「やあ/\」

と言って、量順先生が入って来た。宮下君は立ち上った僕を遮って、

「佐藤さん、昔のお弟子さんをつれて上りました。お分りですか?」

といたずらっぽく紹介した。

「さあ。誰だろう?」

「A市の中学校でお世話になった橘高です」

と言って、僕は頭を下げた。

「北川君? かい?」

「いや、橘高庄三でございます」

「あゝ、来たか庄さんか? これは/\」

と先生は幾度も頷いた。待ってたホイとまでは言わなかったが、専務と同じ洒落を言ったのである。社長の説明の通り、来たか庄さんは余程人口に膾炙しているものらしい。

「ヤンチャン坊で特別に御迷惑をおかけしていますから」

「何の/\。その後は何うだね? 東京にいるんですか?」

「はあ。東大を出て、宮下君と同じ会社に勤めています」

「それは/\。よく訪ねて来てくれた。すっかり立派になってしまって、これでは道で会っても分らない」

「先生は一向お変りになりません」

「いや、寄る年波で大分白くなったろう」

奥さんがお茶を薦めに出て来た。先生はA市での教え子として僕を引き合せた。