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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

娘は赤いものずくめの着物で、髪を島田に結っている。僕は子供ながら、この娘は町の方のものだと思った。おばさんも娘も、ひどく驚いたように顔を上げて僕を見た。二人の顔は真赤であった。僕は子供ながら、二人の様子が当前でないのが分って、異様に感じた。見れば開けてある本には、綺麗に彩色がしてある。

「おば様。そりゃあ何の絵本かのう」

僕はつかつかと側へ往った。娘は本を伏せて、おばさんの顔を見て笑った。表紙にも彩色がしてあって、見れば女の大きい顔が書いてあった。

おばさんは娘の伏せた本を引ったくって開けて、僕の前に出して、絵の中の何物かを指ざして、こう云った。

「しずさあ。あんたはこれを何と思いんさるかの」

娘は一層声を高くして笑った。僕は覗いて見たが、人物の姿勢が非常に複雑になっているので、どうもよく分らなかった。

「足じゃろうがの」

おばさんも娘も一しょに大声で笑った。足ではなかったと見える。僕は非道く侮辱せられたような心持がした。

「おば様。又来ます」

僕はおばさんの待てというのを聴かずに、走って戸口を出た。

僕は二人の見ていた絵の何物なるかを判断する智識を有せなかった。