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いちにんならじ

一人ならじ

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,312 字 · 21 页

青空文庫

業盛も父の気性を受けたなかなかの武将だったが、さすがに晴信の軍配には敵しがたく、ほとんど全滅のかたちで敗れ、彼また自ら刎ねていさぎよく死んだ。

大助が発見されたのは、戦が終って、馬寄せの法螺が鳴りわたったあとのことだった。高折又七郎が思いだして、四五人の兵といっしょにやってきた。彼は失神していたが、助けだされるときの痛みで気がついたとみえ、二人の兵の肩にかかるとき「済まないな」と云った。その足は太股の中ほどから下へかけて布切れのように潰れていた。大助はそれを手で叩いてみたが、橋の上へあがるのを待って、

「これは切り放すよりしようがないな」

と呟いた。

「そうだ、切り捨てるより仕方があるまい、……」

又七郎がそう云って頷いた。

「おれが切ってやろう」

「お願い申します」

大助は草摺をひきあげた。兵たちが潰れた足を取って支えた。又七郎は一刀でみごとにそれを斬り放した。そしてみずから傷口を縛ってやりながら、

「……ばかだぞ栃木、あれを見ろ」

と傍らを顎でしゃくった。

「あすこに丸太が転げているではないか、あれを楔にかえばなんの事はなかったのに、片足を無くしてどうするんだ」