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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
真赤な渦巻の中を縞の様にポンプの水が昇った。
ホースを漏れる水の為に、雨降り挙句の様な泥道を、右往左往する消防夫達に混って、狂喜の一寸法師がチョコチョコと走り廻った。彼の奇怪な顔は火焔の為に真赤に彩られ、大きな口が顔一杯にいとも不気味な嘲笑を浮べていた。彼こそはこの世に火の禍を持って来た小悪魔ではないかと思われた。
背広の男は一方の群集に混って、凝っとその様子を眺めていた。彼の顔も焔の色に染って、異常な緊張を示していた。
だが、やがて蒸汽ポンプの威力は、さしもの火勢を徐々に鎮めてゆき、見物達も安心したのか、一人去り二人去り、段々人数が減って行った。
一寸法師は先程からの狂乱にグッタリと疲れて、しかし同時にすっかり堪能した恰好で群集の列にまぎれて元来た道を引返した。いうまでもなく背広の男は尾行を続けて行った。
一寸法師は暗い町の軒下から軒下を縫って、鼬の様にす早く走った。足の極端に短い彼にしては驚くべき早さだった。その上、子供の様に脊が低いのと、着物の色合が保護色めいて黒っぽい為に、チラチラと隠顕自在のとらえ所のない物の怪の様で、ともすれば見失い相になるのだ。