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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
背広の男はやっとの思いで尾行を続けた。
畸形児は暗い所暗い所と選って、公園をつき切ると、やっぱり吾妻橋を渡って、本所区の複雑な町々を、幾つも曲った末、一軒の不思議な構えの家の格子戸の中へ消えた。
一寸小広い町で、世に忘れられた様な古めかしい商家などが軒を並べている中に、その家は殊更風変りだった。普通の不商屋の張出になった格子窓の一部を小さなショーウインドウに改造して、そのガラス張りの中に、三つ四つ大きな人形の首が並べてある。目を金色に塗った赤鬼の首だとか、生きている様にこちらを向いて笑いかけている大黒様の顔だとか、すごい様な美人の青ざめた首だとか、それが薄ぼんやりした五燭程の電燈に照されて、塵だらけのガラスの中に、骨董品の様に並んでいるのだ。外の商家ではすっかり戸を締切って、軒燈の外には何の光も漏れていないのに、このみすぼらしいショーウインドウだけが、戸もないのか、路上に夢の様な光の縞を投ているのが、一層物凄い感じを与えた。
背広の男は、青ざめた顔で、その不思議な家を眺め廻した。彼は一寸法師がこんなところへ入ったことを意外に思っている様子だった。