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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
標札をすかして見ると、「人形師安川国松」とやっと読めた。
一寸法師は、中に入って格子戸に締りをすると、ほっと息をついた。だが、彼は尾行者のあることなぞは少しも気づいていなかった。気違いめいた興奮の為にほとんど我を忘れた体に見えた。
入った所には縦に長い土間が続いて、その横に、旧式な商家に見える様な障子のない広い店の間があった。片隅には人形細工に使用する箱だとか道具などがゴタゴタと積み重なり、正面の八角時計の下には、びっくりする様な大きな土製のキューピー人形が、電燈に照らされて、番兵然と目をむいていた。ちらと見た瞬間には、生きた人間がこちらを睨みつけているのかと疑われる程だ。畳なども赤茶けて凡てが古めかしい中に、この人形だけが際立って新しく、桃色の肌がつやつやと輝いていた。
畸形児は、土間の突当りの開き戸をあけて、裏の方まで通り抜けになっている細い庭を、奥の方へ入って行った。
「だれだえ」
すぐ横手の障子の中から寐ぼけた声が尋ねた。
「おれだよ」
一寸法師は簡単に答えて、さっさと歩いて行った。障子の中の人は、別段それを咎めようともしない。そのまま怪物の姿は庭の奥の暗の中へ消えてしまった。