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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
薄い板張と襖があるきりなので、向うの話声は手に取る様に聞えた。
「早く逃して下さい。もし見つかる様なことがあったら、ほんとうに取返しがつかないんだから」
平常と違ってひどくぞんざいな調子だけれど果して山野夫人の声だった。
「それは己にしたって同じことだ。だが、まだまだ心配することはない。己の力はお前も知っているだろう」
その圧えつける様な太い声が、あの畸形児かと思うと変な気がした。声だけは人並以上に堂々としているのが、滑稽でもあり、物すごくも感じられた。
「それじゃ引上げようか。持物を忘れない様に気をつけるんだ」
その声が段々こちらへ近づき、畳を踏む音と一緒に、そっと襖を開ける気勢がした。
明智は暗の中で紋三の腕を握って合図をすると、板ばりの一部に手をかけて音のしない様に引外した。ポッカリと四角な穴が開いて、薄い光が差して来た。紋三はいきなり顔を合せるのかと思い、ハッと身構えをしたが、穴の向うには幾つも行李が積んであって、まだ相手の姿は見えなかった。
やがて一番上の行李がソーッと取のけられ、そのあとへ一本の腕がニョイと出て、二番目の行李の紐をつかむとズルズルと向うへ引っぱって行った。