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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

彼女は何かしら騒動が起ったことを感じて、やっとそこまで出て来たところだった。

紋三は老婆をつきのけて入口へ走った。そこにあり合せた下駄を突かけて門の外へ出た。見張りの刑事は一寸法師の方へ行って誰もいない。彼等はもう暗くなり始めた町を、人通の少い方へ少い方へと、よろめきもつれて走った。幸い誰も見咎める者はなかった。

電車通りも無難に越して、彼等はいつか隅田川の堤へ出ていた。その外に逃げ道はなかったのだ。夫人は息切れがしてしばしば倒れ相になった。紋三の肩に縋った夫人の手が、キュッキュッと彼の首をしめた。冷たい乱れ髪が彼の耳をなぶった。やがて彼等は山野邸への曲り道までたどりついた。

「そちらへ行くんじゃありません、今家へ行ったらつかまるばかりです。サア、もっと走るんです」

「イイエ、私はどうしても、一度家へ帰らなければならない。離して、離して」

夫人はか弱い力をふり絞って、邸の方へ曲ろうとしたが、紋三がしっかり抱き込んで、そうはさせなかった。

「心配しないだっていいです。僕はどこまでもあなたと一緒に行きます。サア、愚図愚図している時じゃありません。逃げましょう。