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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

つまり、この吸取紙は三千子のものではないのです」

「すると何だね」田村検事が驚いていった。「エート、一寸法師が持歩いた腕なんかは、三千子のものでないことになるね。それらの指紋がうそだとすると」

「そうだよ。三千子のものではなかったのだよ」

「そんなことをいえば、この事件は根本からくつがえって来る訳だが」

「くつがえって来る。出発点から間違っている」

明智は平気で答えた。田村氏の顔色は漸く真剣味を帯びて来た。刑事部長も一膝前にのり出した。

「では、明智君、三千子は死んでいないというのか」

「そうだ。三千子は死んではいないのだ」

「じゃあ、君は……」

田村検事は、ある感情の交錯のために顔を青くして、明智をにらみつけた。

「そうだ」明智は検事の表情を読む様にして「その通り。君の考えは当っている。三千子は被害者ではないのだ」

「被害者ではなくて……」

「加害者なのだ。三千子こそ犯人なのだ」

「すると、被害者はどこにいる。三千子は一体だれを殺したのだ」

「待ち給え、大体見当はついているのだが」明智は検事を制して置いて、隅の方に小さくなっている人形師をさし招いた。「安川さん。つかぬことを聞く様だが、ここに並んでいる人形は皆註文の品だろうね」