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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
彼は明るい大通をなるべく往来の人たちの顔を見ないように、あごを胸につけてトットと公園の方へ歩いた。もしその辺に友達が散歩していて、彼が安来節の定席からコソコソと出て来るところを見られでもしたら、と思うと気が気でなかった。ひとりでに歩調が早くなった。
半町も歩くと薄暗い公園の入口だった。そこの広い四辻を境にして人足はマバラになっていた。紋三は池の鉄柵のところに出ているおでん屋の赤い行燈で、腕時計を透して見た。もう十時だった。
「さて帰るかな、だが帰ったところで仕方がないな」
彼は部屋を借りている家のヒッソリした空気を思い出すと、何だか帰る気がしなかった。それに春の夜の浅草公園が異様に彼をひきつけた。彼は歩くともなく、帰り途とは反対に公園の中へと入って行った。
この公園は、歩いても歩いても見尽すことのできない不思議な魅力をもっていた。フト何処かの隅っこで飛んでもない事柄に出っ会すような気がした。何かしら素晴しいものが発見できそうにも思われた。
彼は公園を横断する真暗な大通を歩いて行った。右の方はいくつかの広っ場を包んだ林、左側は小さな池に沿っていた。池では時々ボチャンボチャンと鯉の跳ねる音がした。