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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
「どちらへ?」
彼女は癖の、首をかしげて尋ねた。
実業家山野大五郎氏の夫人ともあろう人が、今ごろ満員電車のつり革にぶらさがっていようとは、あまりに意外なので、紋三はすっかり面喰った。
「どうも御ぶさたしました。サアどうか」
彼は兎も角立上って席を譲ろうとした。立上る時、あまりあわてたのと、その時丁度電車がカーヴの所を通り過ぎた為に、フラフラとして、彼の手が夫人の腿の辺に触ったので、彼は一層面喰って真赤になった。
「エエ有難う。丁度いい所で逢いましたわ、私少し伺いたいことがありますのよ。お差支なかったら、この次は広小路でしょうか。今度止ったら私と一緒に降りて下さいません?」
「ハ、承知しました」
紋三はまるで夫人の家来ででもある様に、鞠躬如として答えた。彼は日頃から山野夫人の美貌に対して、ある恐怖に似たものを感じていた。彼は同郷の先輩である主人の山野大五郎氏よりも、この夫人に接する時の方が一層、気づまりであった。
上野広小路で電車をおりると、二人は肩を並べて公園の方へ歩いて行った。
「あなたおひる、まだでしょうね。私もそうなのよ。でも暫く散歩をつき合って下さらないこと。