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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

その代りお話をしてしまったら精養軒をおごりますわ。少し人に聞かれちゃあ都合の悪いお話なんですから」

どういう話があるのか、夫人は非常に大事を取っている様に見えた。しかし、紋三は夫人の話が何であろうと、彼女と肩を並べて歩くさえあるに、その上彼女と食卓を共にすることが出来るというので、もう有頂天になっていた。考えて見ると彼は今朝から一度も食事をしていないのだ。

また彼は、今日一張羅の洋服を着て出たことを仕合せに思った。「これなれば、夫人を恥かしがらせないで済むだろう。いや夫人の服装と丁度釣合が取れてさえいるかも知れない」彼は一歩遅れて夫人の美しい後姿を眺めながら、そんなことばかり考えていた。

「ねえ小林さん。いつかあなたのお知合に、有名な素人探偵の方がある様に伺いましたわね。私の思い違いでしょうか」

夫人は公園の入口のやや人足のまばらになった所へ来ると、いきなり紋三の方を振向いて妙なことを尋ねた。

「ハア、明智小五郎じゃありませんか。あの男なら、友達という程ではありませんけれど、知っているには知っています。長い間上海に行っていて、半年ばかり前に帰ったのですが、その当時逢った切り久しく訪ねもしません。