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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

売場の陳列台はすっかり白布で覆われ、その大小高低様々の白い姿が、無数の死骸の様にころがっていた。

若い番頭は、物の影に注意しながら、暗い通路を歩いて行った。時々立止っては、要所要所にかけてある小箱のかぎを取出して、持っている宿直時計に印をつけた。

所々に太い円柱が立っていた。それが何か生きている大男の様に感じられた。

少年店員は懐中電燈を点して、番頭の先に立って歩いて行った。彼は虚勢をはって歩調を荒々しくしたり、口笛を吹いて見たりした。だが、それらの物音が広間の隅々に反響すると、一層変てこな気持になった。

一番気持の悪いのは、友禅類の売場の中央に出来ている、等身大の生人形だった。三人の婦人がそれぞれ流行の春の衣裳をつけて、大きな桜の木の下に立っていた。店内ではその生人形に、お松、お竹、お梅という名前をつけて、まるで生きた人間の様に「お梅さんの帯だ」とか「お梅さんのショールだ」とかいっていた。お梅さんというのは三つの内でも一番綺麗で、若い人形だった。

この飾り人形については色々の挿話があった。若い店員がある人形に恋をしたなどといううわさがよく伝わった。