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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

間もなく番頭の非常信号によって、宿直員全部が三階に集まった。そしてあるたけの電燈をつけて、非常に物々しい捜索が始められた。陳列台の白布は一々とりのけられ、台の下や、開き戸の中なども隈なく調べられた。三階に隠れていないと分ると、全員が二隊に分れて、一隊は四階以上を、一隊は二階以下を探すことになった。だが、あの様に種々雑多の品物を、所狭く置並べた百貨店の中で、小さな一人の人間を探し出すのは、不可能に近い仕事だった。

ほとんど夜明け方まで大がかりな捜索が続けられたが、結局分ったのは、何一品盗まれていないこと、窓その他人間の出入り出来る場所は、凡て完全に戸締りがしてあって、外部から何者かが忍び入った形跡絶無なことであった。

盗まれた品物がなければ、宿直員に越度はなく、罰俸を恐れることもなかった。

「あいつ臆病者だからね。きっと何かを見違えたんだよ」

という様なことで、捜索はうやむやの内におわってしまった。

その翌日所定の時間になると、百貨店のあらゆる窓やドアが開け放され、いつに変らぬ雑沓が始まった。

支配人は、一応出入口の係員を呼んで一寸法師のお客を見なかったかと尋ねたが、昨日も今日もだれ一人そんな不具者に気づいたものはいなかった。