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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

明智は手早く包みを箱の中へ押し込んで叫んだ。

山野夫人は、併し、凡てを見てしまった。彼女は立上って無表情な顔で一つ所を見つめていた。顔色は透通る様に白かった。

「君、早く」

明智と書生とが同時に夫人をささえた。夫人はもう立っている力がなかった。彼女は無言のまま書生に抱かれる様にして日本間の方へ立去った。

明智は夫人が行ってしまうと、又包みを解いて中の物を取出し、暫く眺めていた。余程注意しないと、皮膚がズルズルとめくれて来そうだった。それは若い女の左の手首だった。これと百貨店にさらされたものとが丁度一対をなしているのではないかと思われた。

彼は棚の上にあった硯箱をおろして墨をすると、手帳の上に、注意深く、腐りかかった五本の指の指紋を取った。そして、それを元通り包み直し箱の中に納めて、目につかぬ部屋の隅へ置いた。いうまでもなく、彼は木箱や包紙や、箱の表面の宛名の文字などは、残る所なく綿密に調べた。

それから、先程のハンカチを解いて、三千子の化粧品の容器類を取出し、それの表面に残っている指紋と、今手帳に写した指紋とを虫眼鏡でのぞき比べた。

「やっぱりそうだ」