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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
堤の上の安全燈からさす光の外は、隙漏る燈火さえなかった。暗黒の中に大入道の様な句碑がニョキニョキ立並んでいた。
山野夫人は探る様にして自然石の間を縫って行った。そして、一際大きな句碑の前までたどりつくと、何かを待設ける様に立止まった。
「奥さんですか」
すると、句碑のうしろから、白いものが現れて、ささやく様に声をかけた。その男は和服に春の外套を着て、大型の鳥打帽を眼深に冠っていた。やみの中でも、大きな眼鏡が、遠くの光を反射してキラキラ光った。
「エエ」
山野夫人がかすかに答えた。震え出すのを一生懸命に堪えている様な声音だった。
「僕のいったことはうそじゃないでしょう。いっただけのことは、ちゃんとやってのけるのです」
不思議な男は、太いステッキによりかかりながら、夫人の顔をのぞき込む様にしていった。
「僕は命を捨ててかかっているのですよ。どんなことだってやっつけます。これ以上のことだって。サア、返事を聞かせて下さい。僕の願いを承知してくれますか、どうですか」
「もう駄目ですわ。ここまで来てはもう取返しがつきませんわ」夫人は泣き出し相な声でいった。「きっと、すっかり分ってしまいます。