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あるくこと
三好十郎の仕事 第三巻
三好 十郎
三好十郎『三好十郎の仕事 第三巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:歩くこと、鈴が通る、破れわらじ、廃墟(一幕)、猿の図、その人を知らず、冒した者、抵抗のよりどころ、アメリカ人に問う、「廃墟」について、「その人を知らず」について、日記より、「冒した者」について。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,472 字 · 667 页
猿の図
1
大野卯平邸の豪華な応接室。壁によせかけ多量の荷造りした疎開荷物。フランス窓をこちらに一段さがるとテラス、テラスの下が防空壕になっている。人が三四人しゃがんでおれるくらいの広さの壕の内部が、こちらから見える。
背広姿の大野卯平と第一装の軍装の薄田が、室の中央の円卓に向い合ってソファにかけ黙々としてブランディを飲んでいる。その二人に並んでもう一つのソファのまんなかに、小さく、ゴーゼンと坐りこんでいるくめ八。
それに向って両足をそろえてキチンと立った三芳重造が、原稿用紙に書いた文章を読みあげている。ゲートルまで巻いた防空服装。
三芳 (しんけんな語調で)……『かくのごとくなって来た状勢の中で、私どもは、かつて私どもの犯していた罪悪が、いかに兇暴なものであったかということを、今さらながら、いな! 今までのどのような場合よりも百千倍も強く、身にヒシヒシと痛感するものであります! それを思うと、泣いても泣ききれず、くやんでもくやみたりません。……なるほど、私どもの思想上の転向は――すくなくとも私の転向は、心底からの日本人としての真の自覚――自分の内における日本人の発見、発掘ということから出発したものであります。