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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

しかし、料理屋を開くには、もう少し料理屋の内幕や経営法を知って置いた方がよい。そう思って口入屋の紹介で住込仲居にはいった先がたまたま石田の店であった。石田は苦味走ったいい男で、新内の喉がよく、彼女が銚子を持って廊下を通ると、通せんぼうの手をひろげるような無邪気な所もあり、大宮校長から掛って来た電話を聴いていると、嫉けるぜと言いながら寄って来てくすぐったり、好いたらしい男だと思っている内にある夜暗がりの応接間に連れ込まれてみると、子供っぽい石田が分別くさい校長とは較べものにならぬくらい、女にかけては凄い男であった。石田の細君はヒステリーで彼女に辛く当った。なんだい、あんなお内儀と、石田を取ってやるのがいい気味であり、そしてもう石田を細君の手に渡したくなかった。二人の仲はすぐ細君に知れて、彼女は暇を取り、尾久町の待合「まさき」で石田に会った。情痴の限りを尽している内にますます石田と離れがたくなり、石田だけが彼女を満足させた唯一の男であった。四日流連けて石田は金を取りに帰った。そして二日戻って来なかった。ヒステリーの細君と石田。嫉妬で気が遠くなるような二日であった。