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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

石田が待合へ戻って来ると、再び情痴の末の虚脱状態。嗅ぎつけた細君から電話が掛る。石田を細君の手へ戻す時間が近づく。しごきを取って石田の首に巻きつける。はじめは閨房のたわむれの一つであった。だから、石田はうっとりとして、もっと緊めてくれ、いい気持だから。そんな遊びを続けているうちに、ぐっと力がはいる。石田はぐったりする。これで石田は自分のものだ。定吉二人。定は自分の名、吉は石田の名。

…………………………

真面目になろうと思ってはいった所が石田の所だったとは、なにか運命的である。私はこの運命のいたずらを中心に、彼女の流転の半生を書けば、女のあわれさが表現出来ると思った。が、戦前の(十銭芸者)の原稿すら発表出来なかったのだ。戦争はもう三年目であり、検閲のきびしさは前代未聞である。永年探しもとめてやっと手に入れた公判記録だが、もう時期を失していた。折角の材料も戦争が終るまで役立てることは出来ない。といってそれまで借りて置くわけにもいかなかった。

「いずれまた借りますから」と、失わないうちに、私はその公判記録を天辰の主人に返しに行くと、

「そうですか、やっぱり戦争だと書けませんか。