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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

寒々とした薄暗い焼跡を上本町八丁目まで歩き、上宮中学のまえを真っ直ぐ三町ばかし行くと、右側にこぢんまりした二階建のしもた家があった。

「ここです」天辰の主人が玄関の戸をあけると、その鈴の音で二十前後の娘が出て来た。唇をきっと結び、美しい眼をじっと見据えたその顔を見た途端、どきんとした。「ダイス」のマダムの妹だったのだ。妹は私に気づいたが、口は利かず固い表情のまま奥へはいった。やがて羽織を着た女が奥から出て来て、「あら」と立ちすくんだ。窶れているが、さすがに化粧だけは濃く、「ダイス」のマダムであった。

「――どないしてはりましたの」

「どないもしてないが……」

「痩せはりましたな」

「そういうあんたも少し」

「痩せてスマートになりましたやろ」

「あはは……」

それが十銭芸者の話を聴いた夜以来五年振りに会う二人の軽薄な挨拶だった。笑ったが、マダムの窶れ方を見ながらでは、ふと虚ろに響いた。

「なんだ、お知り合いでしたか、丁度よかった。じゃ忘年会ということにして……」

天辰の主人の思いがけない陽気な声に弾まされて、ガヤガヤと二階へ上る階段の途中で、いきなりマダムに腕を抓られた。