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せそう
世相
織田 作之助
「人間」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页
ふと五年前の夏が想い出されて、遠い想いだった。
けれど、やがて妹が運んで来た鍋で、砂糖なしのスキ焼をつつきながら飲み出すと、もうマダムは不思議なくらい大人しい女になって、
「――お客さんはまアぼつぼつ来てくれはりまっけど、この頃は金さえ出せば闇市で肉が買えますし、スキ焼も珍らしゅうないし、まア来てくれるお客さんはお二人は別でっけど、食気よりも色気で来やはンのか、すぐ焼跡が物騒で帰ねんさかい泊めてくれ。お泊めすると、ひとりで寝るのはいやだ、あんたが何だったら妹を世話してくれ。まるで淫売屋扱いだす。つくづく阿呆な商売した思て後悔してますねんけど、といって、おかしな話だっけど妹と二人でも月に二千円はいりまっしゃろ。わてがもう一ぺん京都から芸者に出るいうても支度に十万円はいりますし、妹をキャバレエへ出すのも可哀相やし、まア仕様がない思ってやってまんねん」
世帯じみた話だった。パトロンは無さそうだし、困っても自分を売ろうとしないし、浮気で淫蕩的だったマダムも案外清く暮しているのかと、私はつぎの当ったマダムの足袋をふと見ていた。
新しい銚子が来たのをしおに、
「ところで」