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せそう
世相
織田 作之助
「人間」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页
好んで歩くのだった。
その頃はもう事変が戦争になりかけていたので、電力節約のためであろうネオンの灯もなく眩しい光も表通りから消えてしまっていたが、華かさはなお残っており、自然その夜も――詳しくいえば昭和十五年七月九日の夜(といまなお記憶しているのは、その日が丁度生国魂神社の夏祭だったばかりでなく、私の著書が風俗壊乱という理由で発売禁止処分を受けた日だったからで)――私は道頓堀筋を歩いているうちに自然足は太左衛門橋の方へ折れて行った。橋を渡り、宗右衛門町を横切ると、もうそこはずり落ちたように薄暗く、笠屋町筋である。色町に近くどこか艶めいていながら流石に裏通りらしくうらぶれているその通りを北へ真っ直ぐ、軒がくずれ掛ったような古い薬局が角にある三ツ寺筋を越え、昼夜銀行の洋館が角にある八幡筋を越え、玉の井湯の赤い暖簾が左手に見える周防町筋を越えて半町行くと夜更けの清水町筋に出た。右へ折れると堺筋へ出る、左へ折れると心斎橋筋だ。私はふと立停って思案したが、やはり左へ折れて行った。しかし心斎橋筋へ出るつもりはなく、心斎橋筋の一つ手前の畳屋町筋へ出るまでの左側にスタンド酒場の「ダイス」