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アラスカのひょうが
中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河
中谷 宇吉郎
中谷宇吉郎『中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アラスカの氷河、永久凍土地帯、黒い月の世界、白い月の世界、満洲通信、アメリカの旅、アラスカ通信、ウィネッカの秋、ウィネッカの冬、ツンドラへの旅、ネバダ通信。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 122,039 字 · 248 页
豊原から敷香まで、オホーツク海の沿岸を縫って脈々とつづいている鉄道は、地図の上では大した距離にも見えない。しかし樺太の汽車は、この間を十一時間かかって走るのである。朝八時に豊原を立った私たちは、どうしても夕方暗くなるまで、このごとごとと走って行く汽車の中でじっとしているより仕方なかった。それでも二等車はほとんど満員で、乗客の多くは、この事変で新しく活動を開始した樺太の工業に関係した人々のように見えた。
スチームのない客車のこととて、ストーブが設えつけてあったが、それにはまだ火がはいっていなかった。朝もう薄氷のはり始めた樺太では、この火の気のないストーブの鉄の肌が、妙にうす寒く見えた。
豊原を出ると間もなく、汽車はもう荒れた未開墾の原野の中を走っていた。S君の話によると、領有当時の樺太は、このあたりは勿論、大泊のすぐ近くまで、野も丘も一面に亭々たる針葉樹の密林に埋めつくされていたのだそうであるが、今はその面影もない。「このあたりは、更生後十年くらいのものでしょう」という話であったが、この天然更生の途上にある荒野の姿は、私には物珍しく、またその色彩が非常に美しく見えた。