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アラスカのひょうが

中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河

中谷 宇吉郎

中谷宇吉郎『中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アラスカの氷河、永久凍土地帯、黒い月の世界、白い月の世界、満洲通信、アメリカの旅、アラスカ通信、ウィネッカの秋、ウィネッカの冬、ツンドラへの旅、ネバダ通信。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 122,039 字 · 248 页

青空文庫

その表を説明しながら、所長さんは、それらの値を気にして、色々と弁解の言葉を、主として私を案内してきてくれた人たちに向ってつらねていた。「何分人手が足りないものですから」とか、「ここは風の向きがちょうど悪いので」とか、一所懸命に弁解風な説明をしているその所長さんの横顔を眺めながら、私は日本の気象学の発達と、その下積の石となっている人たちの労苦とを思いはかってみた。この淋れた町の、しかもはずれにあるその測候所の窓からは、人家は勿論耕地も見えず、ただ荒れた原野の向うに、落葉松の疎林が見えただけであった。

その日私達は、敷香の試験場に『ツンドラ』の著者の菅原氏を訪ねた。敷香の町は砂を被ったツンドラの上に立った町であった。そして町の中をも、醤油色の幌内川の河口をも、荒涼たる風が吹き抜けていた。

敷香で一泊した私たちは、翌日の朝早く六時五十分の汽車で帰途についた。相変らず霜は真白におりて、道の上の水溜りは堅く凍っていた。仕事がどうにか片付いた気安さに、私はこの遅い樺太の汽車の中で、ゆっくり腰を落ちつけて、もってきた『大唐西域記』をよんだ。谷川さんの好意で、やっと手に入ったこの本が、ちょうど出発前に届いたので、鞄の中に入れてきたのであるが、この汽車の中で読むには、いかにもふさわしい本であった。