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なかざとかいざんの『だいぼさつとうげ』

中里介山の『大菩薩峠』

三田村 鳶魚

「日本及日本人」1932(昭和7)年10月15日号、11月1日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,523 字 · 27 页

青空文庫

の中に書いてある。一体作者は奥多摩に生れた、最も素性のいい少年であって、今日立派に成人して、世間でも評判される人になってからよりも、その少年時代というものに、よほど美しい話を持った人だ。いつにも三多摩からは人が出ていない。われわれの知っている人でも、結構な人だと思う人は、多くは故人になってしまわれて、今残っているのは例の尾崎咢堂翁と、それより若いところでは、大谷友右衛門に中里介山さん、ということになってしまった。作者の心がけというものは、決して悪くなかったんだが、少年高科に登ったのが不幸であるように、この『大菩薩峠』の評判がよかったのが、作者にとって幸いであったか、不幸であったか。私はその後も時折作者に会うが、会うたんびに作者はえらい人になっている。それは郷党のために、喜ぶべきことであるかないか、むしろ気の毒なような気もする。

少年時代のいい話としては、学資を給与するから婿になれ、と富家から求められた時に、それでは学問をした効がないといって郤けて、独学することにして、長いこと小学校の教員をしておった。こういう心持を持った若い人というものは、現代に求むるに難いところで、この一つの話だけでも、作者の人柄がよくわかると思う。