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まるのうち

丸の内

高浜 虚子

「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,875 字 · 46 页

青空文庫

能楽は強いても人に見せる必要がある。一般にその面白味をわからせてやるようにすることは一種の善根功徳である。

今こんなことをいうと一つの空想談のように聞こえるが、必ずしも空想談ではあるまいと思う。

現にホトトギス発行所がこの丸ビルの一室に陣取るという事は、あまり突飛なこととして、初めは人人の嗤笑を受けた。併し今は、私の和服がこの建物と不調和と感じない如く少しも不調和ではなくなった。この丸ビルの一隅にホトトギス発行所のあるという事が当然過ぎる程当然な事のように思えて来た。ここで俳句会の開かれるという事もまた当然過ぎる程当然なことのように思えて来た。

震災で宝生舞台の焼けたということは、報知講堂で宝生流素謡会を開かしめるようになった。今は誰もそれを怪しまぬではないか。

それのみならず、この丸の内の各ビルデングではそれぞれ娯楽機関が設けられて、囲碁、将棋、謡曲、和歌、俳句等、各好むところの集団を作って、各々日に何回というように会合している。

永楽ビルデングの最上層は日本間が設けられて、そこに囲碁の音が響き、謡のけいこの声が漏れる。銀行集会所の最上層もその通りである。