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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

夜歩きはちと控えたがよかろう」

すると泰軒、貧乏徳利を平手でピタピタたたきながら、

「噂だけは聞いた。袈裟掛け――それも、きまって右肩からひだりのあばらへかけて斜め一文字に斬りさげてあるそうではないか。一夜に十人も殺されたとは驚いたな。もとより腕ききには相違ないが――」

「刀も業物、それは言うまでもあるまい。武士、町人、町娘、なんでもござれで、いや無残な死にざまなそうな。だが、一人の業ではないらしい。青山、上野、札の辻、品川と一晩のうちに全然方角を異にして現われおる。そのため、ことのほか警戒がめんどうじゃ」

「うん。いまも来る途中に、そこここの木戸に焚き火をして固めておるのを見た。しかし、おぬしは数人の仕事だというが、おれは、切れ味といい手筋といい、どうも下手人は一人としか思えぬ」

「はて何か心当りでもあるのか」

「ないこともない」

と泰軒は言葉を切って、胸元から手を差しこんでわき腹をかいていたが、

「いいか。おぬしも考えてみろ……右の肩口から左の乳下へ、といえば、どうじゃな、その刀を握るものは逆手でなくてはかなうまい?」

「ひだりききとは当初からの見こみだが、江戸中には左ききも多いでな」