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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「なに、おぬしさえ食うてやればおつる坊も満足じゃろうが、お互いにあのころは若かったなあ」

「うむ、若かった、若かった! おれも若かったが、貴様も若かったぞ、ははははは」

と忘れていた軽い傷痕がうずきでもするように、忠相は寂然と腕を組んで苦笑をおさえている。

泰軒もうっとり思い出にふけりながら、徳利をなでてまをまぎらした。

怖いとなっているお奉行さまに過ぎし日を呼び起こさせるおつる坊とは?

話は、ここで再び十年まえの山田にかえる。

神の町に行き着いたよろこびのあまり、無邪心小児のごとき泰軒が、お神酒をすごして大道に不穏な気焔をあげている時、山田奉行手付の小者が通りかかって引き立てようとすると、ちょうど前の脇本陣茶碗屋の店頭から突っかけ下駄の若い娘が声をかけて出て来た。

わき本陣の旅籠茶碗屋のおつるは、乙女ごころにただ気の毒と思い、役人の手前、その場は知人のようにつくろって、往来にふんぞり返っていばっている泰軒を店へ招じ入れたのだった。

仔細ありげな遠国の武士――と見て、洗足の水もみずからとってやる。

湯をつかわせて、小ざっぱりした着がえをすすめた、が泰軒はすまして古布子を手に通して、それよりさっそく酒を……というわがままぶり。