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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
「よし! いけッ! 手をかしてやれ、斬り伏せてもかまわぬ」
そして、柄をおさえて走り去る大作を見送って、しずかに部屋へ帰りながら、血をみたような不快さに顔をしかめた忠相は、ひとり胸中に問答していた。
このけさ掛け斬りの下手人が、左腕の一剣狂であることは、自分は最初から見ぬいていた。それをさっき泰軒に、やれ左ききであろうの、数人に相違ないのと言ったのは、泰軒といえども自分以外の者である以上、あくまでも探査の機密を尊んでおいて、ただそれとなくその存意をたぐり出すために過ぎなかったのだが――。
なかでは、泰軒が帯を締めなおしていた。
天下何者にも低頭しないかれも、大岡越前のためにはとうから身体を投げ出しているのだ。
「聞いたぞ、おれが出てみる」
「よせ!」忠相は笑った。
「貴様に怪我でもされてはおれがすまん」
「なあに、馬鹿な」
一言吐き捨てた泰軒は、
「帰りがけにのぞくだけだ……では、また来る」
と、もう闇黒の奥から笑って、来た時とおなじように庭に姿を消すが早いか、気をつけろ! と追いかけた忠相の声にもすでに答えなかった。
無慈悲の辻斬り! かかる人鬼の潜行いたしますのも、ひとえに忠相不徳のなすところ――と慨然と燈下に腕をこまぬく越前守をのこして、陰を縫って忍び出た泰軒が、塀について角へかかった時!