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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

たしかに見たのだ!」

源十郎はくしゃみをする前のような奇妙な顔をした。

「…………」

「だから貴様はすでに死んだ。おれに斬り殺されたのだ。そこに立っておるのは貴様の亡者だよ。あはははは、戦わずして勝敗を知る。剣禅一致の妙諦だな」

源十郎も蒼い頬に苦笑を浮かべて、

「勝手なことをいう――」

と刀をおろした時、周囲をまごまごしていた土生仙之助が仲にはいった。

「同士討ちの機ではござるまい。まま御両所、ここは仙之助に免じておひきください」

左膳は口を曲げて笑った。

「なんでえ今ごろ! 気のきかねえ野郎だなあ!」

そして乾雲丸を鞘におさめて、さっさと離庵へはいっていった。

立ち去ろうとする源十郎を、仙之助がぶらさがるように抱きとめて戸内へつれこむ。

まもなく手が鳴っておさよが呼ばれたのは、庵室の三人、これから夜へかけて仲なおりの酒盛り……例によってそのうちお艶が引き出されることだろうが――。

うら木戸のそばに納屋がある。

薪、柴など積みあげてあるそのかげ。

昼間でさえ陽がとどかないで、年中しめった木の臭気がむれている小屋のうしろ。いまは夕ぐれ間近いうそ寒さがほの暗くこめて、上にかぶさる椎の枝から落葉が雨と降るところに。