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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
口々に呼んでも左膳の答はない。
のみならず、つい先刻まで濡れた闇黒に丸窓を浮き出させていた離室の灯が消えている。
変事出来!
と、とっさに感じとると同時に、ただちに源十郎指揮をくだして、一同寝巻の裾をからげ、おのおの大刀をぶちこんで密と庭におり立った。
雨中を、数手にわかれて庵室をさして進む。
ピシャピシャピシャというその跫音が、おのずから衿もとに冷気を呼んで、降りそそぐ雨に周囲の闇黒は重かった。
この多勢の人影を、かれらが母屋を離れる時から見さだめていた泰軒は、一声なかの栄三郎を励ましておいて、つと地に這うように駈けるが早いか、母屋からの小径に当たる石燈籠のかげに隠れて先頭を待った。
庭とはいえ、化物屋敷の名にそむかず、荒れはてた草むらつづきである。
さきに立った土生仙之助が、抜刀を雨にかばいながら濡れ草を分けて、
「起きて来たのはいいが、泰山鳴動して鼠一匹じゃあねえかな……よく降りゃあがる」
独語ちつつその前にさしかかった時だった。
パッと横ざまに飛び出した泰軒の丸太ん棒、
「やッ! 出たぞ!」
と愕きあわてた仙之助の身体はそのまま草に投げ出されて、あとに続く人々の眼にうつったのは、仙之助のかわりにそこに立ちはだかっている異形ともいうべき乞食の姿だった。